詩歌の可能性をば。∞(122)訳詩ポー「不穏そのものの谷」

エドガー・アラン・ポーほど世界文学に多大な影響を与えながら


誤解され続ける存在は、珍しかろう。


推理小説の祖として扱うのはすでに不当な評価の始まりとさえ


勘ぐられるし、もちろん彼の詩業をきちんと評価して、


たとえばボードレール、マラルメなどのフランス象徴詩が生まれたのが


ご周知のことだろう。


自作でも


現在公開中(ユーチューブで)の動画で


無伴奏ヴァイオリン・ソロNo.4'The Valley of Unrest (E.A.Poe)'にも


採り上げたのが一昨年の秋頃でしたし。



今は短編小説家として忙しいんですが、


先頃O・ヘンリーよりポーの短篇小説を愛読した話をしましたね。


当該の詩は原語で読む分にはさしたる理解の妨げがないですが、


日本語に訳すれば?と


さすがにまいった。


題名'The Valley of Unrest'からして


訳者泣かせときたらありゃしないっ!


しかし夕べ突破口を見つけて、何とか訳詩を書き上げました。


おかげでだいぶ夜遅くなっちまって寝不足気味。


だっはっ。(0^0^0)


まず、原詩をかかげましょう。




The Valley of Unrest


Edgar Allan Poe


Once it smiled a silent dell
Where the people did not dwell;
They had gone unto the wars,
Trusting to the mild-eyed stars,
Nightly, from their azure towers,
To keep watch above the flowers,
In the midst of which all day
The red sun-light lazily lay.
Now each visiter shall confess
The sad valley’s restlessness.
Nothing there is motionless.
Nothing save the airs that brood
Over the magic solitude.
Ah, by no wind are stirred those trees
That palpitate like the chill seas
Around the misty Hebrides!
Ah, by no wind those clouds are driven
That rustle through the unquiet Heaven
Uneasily, from morn till even,
Over the violets there that lie
In myriad types of the human eye---
Over the lilies there that wave
And weep above a nameless grave!
They wave:---from out their fragrant tops
Eternal dews come down in drops.
They weep:---from off their delicate stems
Perennial tears descend in gems.





ポーはみずから言っているように、詩は音楽だという自説の通り


韻をたくみにふまえてイメージ豊かな世界を築いている。


見つけた訳詩の突破口というのは、


10行目'The sad valley's restlessness'(我が訳では「その悲しい谷間は不穏そのものなのだと」)


という名詞だから、


「憩いのない」「落ち着きのない」「そわそわとした」「不穏な」とかいう形容詞を


冠しても多義性に富む詩の内容にそぐわないというジレンマに対して、


いっそ、「不穏そのもの」とそれ自体が不穏そのものだ、という谷のイメージという解決策を


見つけたわけです。


1行目'Once'と9行目'Now'が斜体になっているのにも


留意されたい。


散文の名手としても卓抜たる想像力を発揮した詩人の資質がここに垣間見える。


日本語訳で「むかしは」、「いまは」と太字表記することにした。


また文法的な詐術を尽して韻文でイメージ豊かに言葉をつむぐ才にも長けているので、


冒頭の'it smiled a silent dell'の無人称itをどう解釈したものか、おおいに悩まされた。


It rainsという文例から分かるように、「雨が降る」。


しかしながら4行目'stars'、5行目'azure towers'という高みのイメージを見て、


敢えて神?高みにいる何者か?ともつかぬ無人称として解釈し、


「雨が降る」という文例にしたがって訳した「静かな小さな谷間が微笑む」を


とらずに、


「何者かが静かな小さな谷間に微笑む」と訳することをとったのです。



まあ、少なくともポーの詩のイメージに一歩でも近づけたかな、


皆さんの頭の中にスッと入りやすい訳詩に仕上がったんじゃないかなと


思います。



では前置きはここら辺にしときましょう!


(*^_^*)





不穏そのものの谷  


   エドガー・アラン・ポー



かつては、何者かが静かな小さな谷間に微笑んでいた、
そこは全然誰も住まなかった、というのは、
穏やかな目つきの星星に身を賭して、
戦場へすっかり誰もかも出払っていたからだ、
夜な夜な、はるかなる高みからその星星が
花々を見張っていた、
日がな一日そこの花々のまん中に
けだるそうに赤い陽が横たわっていた。
いまは、そこを訪れた誰もこぼすであろう、
その悲しい谷間は不穏そのものなのだと。
動かないものは一つたりともない。
目も眩む荒野にのしかかる空気を
何たりとも減じようがない。
ああ、無風なのにそこの木々が
霧のこもったヘブリード諸島の周りの
冷たい海のように動悸し、揺さぶられることか!
ああ、無風なのにそこの雲々が
そわそわとして朝から夕まで
落ち着きのなげな天空を慌ただしく駆られ、動くことか、
人間の千の眼をたたえて
地べたに広がる菫たちのはるか上を――
無縁墓地のうえで首を揺らせ
泣いている百合たちのはるか上を!
それら百合たちが揺れているのは、――香しい天辺からは
永遠に続く露がぽたぽた滴り落ちるからだ。
それらが泣いているのは、――華奢な茎からは
季節に関係ない涙が宝石になって落ちるからだ。





画像




ポー詩集—対訳 (岩波文庫—アメリカ詩人選)
岩波書店
エドガー・アラン・ポー

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ポー詩集—対訳 (岩波文庫—アメリカ詩人選) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

ポー詩集 (新潮文庫)
新潮社
エドガー・アラン ポー

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ポー詩集 (新潮文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

詩の形象と霊知—シェイクスピア、キーツ、ポー、ワイルド、エリオット
思潮社
高市 順一郎

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 詩の形象と霊知—シェイクスピア、キーツ、ポー、ワイルド、エリオット の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック