詩歌の可能性をば。∞(82)「ことばの仮供養」

 ことばの仮供養




使いきって折れた針にご苦労さんと
感謝の念をこめて豆腐に刺して神前に
供える針供養が縫い物など知らなくなった現代人でも
続けられているのが春告げる行事
ところが寸鉄人を殺すのを本領としているはずの
ことばが3・11で折れ打ちひしがれ
饒舌が失言を重ねて追いつかない始末に落ち
沈黙が面子を保ちあわよくばの機会をうかがい
豆腐に刺す折れた針の形をも
とどめないほどに木っ端微塵に打ち砕かれてしまった

舌足らずがことば以外の伝達手段にすがりつき
語彙力自慢がぽかりと開いた空洞の前に途方にくれ
かつての矜持が粉微塵に打ち砕かれ 
斜めに見る精神のお得意な毒気も抜かれ
ことばが万能ではないとも思い知らされて
ただ涙をぽろぽろ流すというしょっぱくも
悲しい唯一無二の無力感を表出する感情表現しか
からっきり残らなくなってしまった

それでも知りたいと思うものに応えようと
声の限り叫び足の許すかぎり駆けまわり
ことばを発するのを容赦しないばかりの巨大な力の前に
膝ががくがく震え嗚咽にたえかねて手にとった撮影機材に
信じられない3・11の画像がふんだんに記録され
あらゆるスクープも暴力沙汰も小さな事件に見えてしまった
どんなにことばを奮っても正確さはともかく
じぶんの言いたいと思うものはないことを思い知らされた

事態が少々落ち着いてきた頃涙が枯れ
その代わりにずたずたに折れたことばをしぼって
とにかく何か言うより体を動かせばいいと相反する気持ちを
何も言いたくない何も考えたくないとやっとのことで気持ちを
表現するしかなかった こんなひどい目に会ったからって
人が偉くなるわけじゃねぇ ことばが練られるとも思えねぇ
ご大層なことばをかけられたっててんで慰めにもならねぇ
前のようにありふれたことばをかけられたほうがどんなにありがてえか

粉砕しきって意味をもなさないほどになったことばを
拾い集めてやはり豆腐に刺すのが無理なら埋めて仮に供養した
ほうがよぐねぇ? 3・11をことばの仮供養の日にしようか
ありふれたことばにありがとうと感謝の念をこめて
豆腐に埋めて神前に供える形にすっぺ それで帰らぬものが帰るとも
失われたものが戻るとも決して思わんがふんぎりをつけたらええ
心がヤワで豆腐のようにつぶれてもいくらでもやり直しが利く

おもつさげがねぇ(*)



(*)東北弁「申し訳ない」という意味。



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