詩歌の可能性をば。∞(70)連詩3「よたり、風をつきぬけ」

 よたり、風をつきぬけ



言葉を失って当たり前だと
誰かが吐きつけた 同情の余地もなき
冷淡きわまりなくどこまでも
広がりゆく瓦礫の山を前に
思わず怒ってそのひとに食いかかった
―こんなひどいありさまの前じゃ
そんなひとごとのように言い放ってしまれっか?
そのひとが言い返した きょとんとするくらい静かに

無能無策から閉塞感が蔽ってしまったんだから
吹き払うごとく いってみりゃ 全国民の
念力が通じたんだ このままじゃダメだと
大きな尺度は苦手なんだけども
くせぐせしかった尺度を根こそぎ押し流す
破壊力は ほかでもない 念力のたまものだ

そんなたわけなと言いたかったが
祖母祖父から聞き知った罪障ということばが
ぴたりと脳裏に貼りついて
これがぼくら人間の罪障そのままか?と
それきり言葉を失い 口をつぐんでしまった
そのひとが涙ぐみながらも心なしか微笑んでいた

こういう時だからこそいいところを
見せなくっちゃと奔走するお偉方たちの浅ましさに
言葉を失うが もう二度と会えなくなったそのひとの
言葉が夢の中でも繰り返された
よく考えてみればこんな自然の力は
どんな軍事力でもかないっこないことからして見れば
言葉を失って当たり前だと 救援にかけつけてきた
外国人たちの反応を見るとやはり皆がそうだった

―なあ 人類はたかだか何万年前にポッと出て
言葉を獲得してここまで来たんだろ?
そのひとが夢の中で言ってきた

―これはもう夢の中だといっていい
善悪入り乱れて強く念じれば
おぼろげな生死の分かれ目をくぐり抜けて
助けを求めるいとまもなくただひたすら
逃げのびてきた身が疲れはてて
言葉なき荒波から浮き上がってきた
自分でも驚く怒りに満ちた声に
これまた考えてもみなかった言葉をのせて
大空に向かって叫んだものだ
―神も仏もあったもんじゃない いるのは悪魔だけだ!
いっそ悪魔に生かされたなら悪の道を進めと?
もしも神に生かされたならよりよく生きろと
これが善導か? こんなひどいありさまの前じゃ
無意味じゃなかろか? 

後日といっても避難生活のわずか数日後に
人づてに聞き知ったことだが 安否情報ボードの
写真でそのひとに間違いないと確認した
そのひとは身を挺して他人を救おうとしたが
第二波に呑まれていのちを落としたと
記憶ちがいだったか あるいは夢の中のやりとりを
瓦礫の山の前で現実に交わしたと思い違いしていたか
それともぼくはそのひとが生き延びてきたと
思い込んでいたのか?

―これが夢の中で交わした会話だとしよう
言葉を失って当たり前だと言ったら
君は怒ったんだね 正しいよ こう言い加えよう
誰でもこころの底で世界の終わりが来ればいいと
願っているくせに
いっぺん神さまの大出血サービスみたいに
現実になってしまったら そう願っていなかったぞ!と
言いつくろうか もし来るはずがないと思っていたら
現実の前で言葉を失って涙をぽろぽろ流すだけだ
百年か 千年に一度の災害と呼ぶならば
我々の思いが足りなかっただけだ 一万年の思いに
満たないのが実際の我々の姿だ
ならこれまでの空疎な言葉を止めて 思いを新たにし
新たな言葉を獲得するために 
いったん口をつぐんだほうがいいのだ

それでも美辞麗句を尽して言葉を発したがるのは
自分をよりよく見せようとしたがるからなのだ
自分の思いの足りなさをひた隠しに隠すためなのだ
言葉より自分の思いの足りなさを思い知らされ
言葉を失うのは罪障消滅にはるかに及ばない我々の
正しい姿だからなのだ 

無能無策から閉塞感が蔽ってしまったんだから
吹き払うごとく いってみりゃ 全国民の
念力が通じたんだ このままじゃダメだと
大きな尺度は苦手なんだけども
くせぐせしかった尺度を根こそぎ押し流す
破壊力は ほかでもない 念力のたまものだ

そうなのかも 願いが通じるのと違う気がする
よかろう ぼくら人間の尺度をこう分けよう
世界の終わりは夢の中だけでもう沢山なんだが
現実になってしまっても 決して終わりなんかじゃない
ただ言葉より自分の思いが足りなかっただけだ
念力といって悪ければ虫の知らせだと
思えるようになれば なんとかなるかも知れない
そこは言葉を一度失ってしまった意味なのかも

―もう夢から覚めたから
よたり、風をつきぬけ さらに数人、風をつきぬけ
思いを新たに永くして失われずにすむ言葉を
かち得るように
世界の終わりはひとの心の中にあるから
言葉の終わりはひとの念力が尽きないように
生身が滅しても綿々と語り伝えられるので
決して終らないと思えば 風をどこまでも
つきぬけられていくのだ

よたり、風をつきぬけ この世に懲りぬならば
皆が、風をつきぬけ 思いを新たに永くして



画像




これで連詩が終わります。


率直なご感想をお願いします。


自分の詩才がどれくらい足りないかを反省しましょう。


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック