詩歌の可能性をば。∞(68)被災地に思いを寄せて連詩。「ひとり、風をつきぬけ」

先日公開した詩「怖い隣人」をはさんで、


被災地に思いを寄せて連詩をこつこつ書いては推敲し、書き進めました。


実際に被災者たちに寄り添うことがいかに難しいか、と


思い知らされ、慎重に何度も読み返してきました。


「ひとり、風をつきぬけ」という詩想は


実は3・11以前に思いついて、別の題材で書くつもりでした。


しかし、はからずも被災地に思いを寄せて書いたものになりました。


それでもまだ書き足りない気がして、


あと二編の詩を書いて連詩形式になったのです。


ご非難と批判を甘んじて受けましょう。


敢えて一石を投じるなんて生易しいもんではなく、


被災者たちの厳しい眼差しにどうさらされるか、どう耐えられるかを


みずから試してみたい気持ちもあります。


朗読しません。


どうぞ!




 ひとり、風をつきぬけ



どう考えればいいか
疑問に答えをどう見つければいいか
そのやり方をネットに頼り切って
どこまで力を振り絞って走ればいいか
息が乱れたらどうすればいいか
体力の限界と体育で知らされて
ひとりで風をつきぬけることを
忘れさった君よ、あの日をさかいに

顔なじみと全然見知らぬ大人たちが
ネットと自家用車を置き去りにして
てんで走れと叫んだ
ランク下から何番目の体力の
君は何が起こったか分からないで
ひたすら足が棒になるくらい
走った 暮らしなれたところから
ピクニック以外に行ったことの
ない山地へと 足裏が痛くなるくらい

その後のことはおぼえていない
大人たちが総がかりで君たちを
無理矢理連れてきたもん そして
目の前で起きたことを見るなと叫んだ
分からずに目をそむけて何も見ていなかった
耳に今まで聞いたことのない轟音が
映画で何度も聞いた爆発音や効果音など
比べものにならないほどに大きく
すぐ近くまで押しせまってきた

なにに例えたらいいだろう
目を開けたら暮らしなれた町が流された
映画みたい? 戦争みたい?
作りものっぽくない? これが本当?
愛しい風景がごっそりなくなり
君の見慣れた船や家や堤防などが
めっちゃ壊されて 地平線に立つものが
消えてしまった

君はこの瞬間をさかいに
ひとり、風をつきぬけることを
初めて知ってしまったから

身近なひとが帰らぬものになり
うっとおしく感じられたひとが
急に頼もしく感じられ
皆がひとりずつ風をつきぬけた気持ちを
分かち合い ひとつになって
何もかもなくなったところに
戻ろうと肩を寄せ合って
窮屈でもいっしょに暮らしている

君は悲しい真実を知ってしまった
風に追いつかれたらもたないと
とにかく走れるだけ走って
風をつきぬけ そうしたら生活に
必要なことが誰も惜しみさえしなければ
追いついてくる
ひとり、風をつきぬけ
命からがらという言葉が遅く追いつくと

ひとり、風をつきぬけ




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中原 澄子

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